ひゅん!と空を切って自分の顔面へと飛んできた何かをはギリギリで首を曲げて避けた。
「あの‥‥躯さん?いきなりグーパンチって、一体どういう事ですか(汗笑)?」
その『何か』を飛ばした張本人に問い掛ける。
「ほう。流石だな。力を押さえているとはいえ、オレの不意打ちを見切って避けるとは」
「さっきもお話しましたけど、私、貴女よりは直接戦闘能力はかなり相当だいぶ弱いんです‥‥って、言ってる傍から!」
ひゅん!言いかけている彼女にもう一度、躯の拳が飛ぶ。それを先程と同じ様に首を曲げてかわしながら、は自分も手を出して、突き出された躯の腕を受け止めた。受け止めたその手で捕まえた躯の手首をゆっくりと捻って間接を極める。
「実力差ありすぎなんだから、弱いものイジメになっちゃいますよ?」
きりきりと手首を極め上げながら問い掛ける。
「‥‥間接を極めながら言うセリフじゃないだろう?」
関節が極められ、絞り上げられているのだから、手首を起点にそれなりの激痛が走っているはずなのに、笑いが含まれている楽しげなセリフ。
「‥‥正当防衛の…範囲だと思いますけど?」
が返事をしたとたん、躯が無事な方の手での頭部めがけて一撃を繰り出した。とっさに極めていた手を離して大きく身を沈める。大振りの一撃はの頭があったはずの空を切り裂いた。続けて沈めた身に目がけてローキック。これも紙一重で後ろに飛び下がって避ける。
「危ない事はやめましょうよ。私、これでも一応平和主義者なんですけど」
飛び下がった時のしゃがみこんだ姿勢からようやく立ち上がっては言う。その立ち方は、既に『普通の女の子』のそれではない。何かしらの体術か武道をきちんと修めた、達人に近い人間のそれ。
「平和主義者が、オレを殺すなんて物騒な事を口にするか?」
楽しそうに言う躯。言いながら攻撃の手は緩めない。
「平和主義者だから、必要最小限の犠牲で平和になる様にあーゆーこと考えたんですよ?」
自分目がけて飛んでくる、躯の拳や手刀、蹴りをよけたりブロックしたりしながら返答する。その動きは軽やかで、攻撃している躯の姿が無ければ、まるで何かの踊りを踊っているように見える。
「躯さん、どうせ、本当の実力の多く見積もって半分位しか出してないでしょう?こっちはもう、避けて防ぐだけで限界一杯一杯ですよ?」
「オレがどの位の力でやってるかを見極めて話せる時点で、まだ少しは余裕があると思うがな。いいから攻撃してみろ。どの位やれるか、見て見たい」
「折角のお誘いですけど、お断りします」
飛んできた抜き手の手刀をブロックしてそのまま力比べの様になる。
「キツネが怖いか?」
からかうような口調の躯。
「怖いに決まってます。今の時点でバレたら大事なのに、こっちも手を出したらどうなる事か」
「秘密にしといてやるぞ」
「だったら、この位で勘弁して下さい」
すい、との足が伸びて、躯の足に強烈な足払いをかけた。かなり不意打ちに近かったそれは、躯を倒すまでは行かなかったものの、バランスを崩させて、力比べをストップさせるには十分な効果を発揮する。
「ようやくやる気になったか?」
大きくバランスを崩して片手を床につき、倒れるのだけは防いだ躯が立ち上がりながら笑う。
「なりませんよ。今の足払いで貴女を転倒させられなかった時点で、私の実力がたいした事無いのを証明してますもの」
大きく1歩踏み込んだら、お互いがお互いの攻撃の間合いに入る程度の距離を保っては言う。
「そうか。つまらんな。『お友達』のお願いとかでもダメか?」
チェシャキャットスマイルで問いかける躯。
「そう言われるとちょっと困りますけど‥‥」
は困ったような顔をした。
「貴女と手合わせする気は無いんです。でも、まあ、私の能力(ちから)を見たいなら‥‥」
言いながらは胸の前で手をあわせ、合掌すると目を閉じた。ほんの少しだけ気を集中する。『普通の人間』には出す事は出来ない淡い青真珠色の陽炎めいた光が合わさった手の隙間からゆらりと登る。
「‥‥来て」
一言呟いて合掌していた手を何かを捧げもつように広げる。ふぉんと言うかすかな音と共に、淡い青真珠色の陽炎の中から、ハンドボール大の球体が現れた。現れた球体はそのままの手のひらの僅かに上でふわふわと浮遊している。それは透明で、向こう側が透けて見えた。
「こう言う芸当が出来ます。少しは満足しました?」
にっこり笑って小首をかしげる。
「水の召喚、それも大した手間もなしにか‥‥。妖怪(オレ)たちの基準で言ったら支配者級(クエストクラス)だな。たいした事あるじゃないか」
手の上で浮かんでいる球体…水の玉と、の顔とを交互に見ながら言う。
「自然物の召喚は精霊使い(私たち)にとっては基礎です。精霊の守護する自然物(もの)すら召喚できない未熟な術者では、精霊(彼ら)は契約の縁(えにし)を結んではくれませんから」
多分、貴女がた妖怪とは術の体系が違うんでしょうね。現れる結果は同じだとしても。そう付け加えては笑う。
「基礎だとしても魔界(ここ)の空気の中でオレとこれだけ渡り合って、召喚までたやすくやってのける。お前の実力はお前自身の評価よりは高いと思うぞ」
感心したように言う躯。
「ほめて貰って嬉しいですけど、そろそろ終わりにしませんか?これ以上抑えていた気を開放しちゃうと、本当に蔵馬にバレちゃうと思うので」
肩を竦めて答える。
「これで終わり?そんなもったいない事が出来るか」
言うと同時に躯は己の手に気を集め、めがけて気弾を放つ。
「ちょっ‥‥」
躯本人との言う通り、今の躯は『実力の半分』で、と手合わせているのだろうが、だとしてもその気弾に込められた妖力はどう見ても半分とは思え無い質量で、を絶句させる。が、やはり躯が『ただ者ではない』と看破したその目に狂いは無く、はすぐに気を取り直す。
「護りよ!」
再び青真珠の陽炎が手のひらと浮かんでいる水の玉からこぼれてきらめく。水球が青真珠の輝きを纏って弾け飛び、何かを押しとどめるように付き出されたの両手のひらを頂点に流線型の陽炎と同じ色のバリアに変じての全身を覆う。
躯の放った気弾はの作り出したバリアに行く手を阻まれて激しくスパークし火花を散らす。だが、それを阻むバリアの方はこれと言った変化は見られない。ひびが入る訳でもなければ、形が大きく歪む様子も無い。逆に気弾の方が、力を失って飛び散る気の火花とともにその身を削り、線香花火のように小さくなっていき、消滅してしまった。
「躯さん、終わりにしましょうって言ったじゃないですか」
バリアを解き、あきれたような口調で言う。
「‥‥お前、術の方が得手だな。とっさに張った結界であの気弾を完全に防ぎきるんだから」
の言葉を意に介さずに、躯はますます楽しそうだ。
「確かに貴女の言う通り、術の方が得手ですよ。特に守りは。さっき程度のあなたの攻撃は、ほぼ確実に防ぎきる自信あります。だから、もう終わりにしましょうよ」
ここぞとばかりに力を込めて力説する。
「まだやれるだろう?これから面白いところじゃないか」
の説得を無視し、躯は再度気弾を打ち出した。話を聞き入れてくれない躯に、は大きくため息を1つついた。
「ちょっとは相手しないと納得してくれないのかなあ‥‥」
つぶやくと、飛んでくる気弾を床を蹴ってジャンプしてやり過ごす。やり過ごした気弾へ向けて手を差し伸べる。
「捕まえて!」
差し伸べた手から、今度は淡い緑真珠の陽炎。陽炎に触れた空中から風が渦巻いて、飛んで行く気弾を捕まえ、包み込む。躯の気弾は、の生み出した小さな竜巻にぐるぐる巻きにラッピングされて、進行を止められる。
「きゃっ」
気弾をとめて一息ついていたところへ、躯が気を纏わせた拳を、事もあろうかみぞおち目掛けて打ち込んでくる。ほぼ完璧な不意打ちだったそれには、もさすがにさっきのような結界を張る余裕は無く、クロスした両の手に自前の霊気で防御壁を張っただけでまともに受け止める事になってしまった。の作った防御壁と躯が拳に纏わせた気が接触してばちばちとカメラのフラッシュの様な光が飛ぶ。堪え切れなかったのか、それとも勢いを殺す為なのか、は、躯の拳の軌跡をなぞるように後ろに飛び下がる。そこに畳み掛けるように躯が連続で気を纏った攻撃を出してきた。飛び下がった為に体勢が大きく崩れたはとっさに動く事が出来なさそうだ。先程の一撃が、やっぱり苦痛だったのだろう、わずかに顔をゆがめながら、は床に片手をついた。
「壁!」
床についた手から、緑の次は淡い黄真珠の陽炎。何も無かった床から、土壁が複数枚と躯の間を遮るようにそそり立つ。 だが、今度の現れた壁は見かけ通りの強度しか持ち合わせなかったらしい。躯の攻撃が当たると、あっさりと砕け散る。土埃が煙幕となって、と躯の視界を遮った。
「後ろだな!」
躯が楽しそうに叫んで背後の土煙目掛けて裏拳を入れる。何かにかすった様なかすらない様な感触があった。自らの読みは間違っていなかったものの狙いが外れて、小さく舌打ちをする。その裏拳を放った手…機械の手に、ひんやりした何かが絡みついた。
「生きた帯(リビング・サッシュ)‥‥!」
ぐい、と絡みついた何かごと躯の機械の手が強い力で引っ張られる。躯は大きくバランスを崩し、危うく受身の取れない体勢でまともに引き倒されそうになった。腰を落とし気味にし、重心を低めに保って、絡みついた『何か』の来た方角を見る。ようやく収まり始めた土煙の中から、数m先にきらきら光る何か帯の様な物を両手で凧揚げの凧糸のように操るの姿が見えた。よく見ると、きらきら光る帯は淡い青真珠色の光を纏っていて、帯の本体は青真珠の光ではっきりと判別できないが透明な何か‥‥おそらくは水で出来ている様だ。
「引き寄せて!」
が手にした帯をぐいと手繰り寄せた。力一杯手繰り寄せたようには見えない仕草なのに、強い力で躯はの方へと引き寄せられる。が手繰り寄せる仕草と同時に帯が自分で強力に収縮して躯を引き寄せる力を生んでいるようだ。『生きた帯』と彼女が呼ぶだけの事はあるシロモノらしい。
「面白い!」
本当に、本当に躯は楽しそうだ。自分に巻きついた帯を巻きつかれた機械の手と、無事な生身の手、両方でつかむと、引き寄せると帯に逆らうように手繰り寄せると、逆にを引き寄せようとする。帯がと躯の間で、ピンと張ったり、緩んだり。期せずして世にも奇妙な綱引きが始まる。
「帯本体に頼る辺り、純粋な腕力はあまり無いな。だったら、オレの勝ちだ!」
帯を手繰りながら、しばらく様子を見ていた躯は、叫ぶと同時に、躯は一瞬だけ『自称半分』に押さえていた力を、少なくとも7割から7割5分まで解放した。掴んだ帯を思いっきり引っ張って自分の元へ、もろとも手繰り寄せようとする。彼女の目論見は当たって、強烈な力が帯に加わり、は帯を掴んだまま、カツオの一本釣りの様に、大きく空中に跳ね上げられた。
「‥‥っ、きゃぁぁっ」
一本釣りされてしまったが、流石に悲鳴を上げて宙を舞う。彼女の背後には天井がぐんぐん迫ってきており、激突は時間の問題。それでも掴んだ帯を放さないのはさすがと言うべきか。
「間に合って〜!」
激突寸前で、身体を丸めて受身を取れるようにしつつ、は片方の足で天井を蹴った。一本釣りした相手‥‥躯に向かって、天井を蹴った反動と、一本釣りされた勢いを味方に突っ込んでいく。空中でくるりと一回転して、躯の足を踏み潰さん勢いで足から躯の足元へと着地した。もしかしたら本当に躯の足を踏みつける事を狙っていたのかもしれない。
「‥‥おっと」
間髪いれずに帯を握りしめたままで、左の肘を、下から躯の顎へ向けて自分も立ち上がる勢いのまま突き上げた。その肘はぎりぎりでかわされて、狙っていた躯の顎を僅かにかすめて空を切る。肘がかわされると、今度は踊りを踊るかのような滑らかな動きで、右の掌打が、躯の鳩尾へ。今度はかわし切れずに、まともに掌底が入る。打撃がヒットしたと同時に発勁でもあったのか、それとも単に急所に入ったからなのか、躯の顔が、初めて僅かながら苦しげに歪んだ。しかし、躯とて、只者である訳が無い。掌打を食らいながらもの脇腹目がけて膝蹴りを飛ばした。だが、もそれを90度身体を開く様にステップを踏んで避ける。そのまま腰を落とし、下から躯の喉目がけて鋭い抜き手の手刀。それを機械の手で迎え撃とうとして、躯は、自分の生身でない方の腕が、突然凍りついたように自分の意志で自由に動かなくなってしまったことに気がつく。ちらりと目を走らせると、いつの間にこんな事が起こったのか、機械の手が白く霜まで纏っている氷にコーティングされて氷付けにされている。
「なっ‥‥」
ありえない事に対する、一瞬の驚愕。だが、激しい攻防のさなかでは、その一瞬が命取りとなる。その隙にの手刀は躯の喉目がけて突き刺さる‥‥寸前で止まった。
「‥‥勝負あり、ですね。これでチェックメイトですよ」
にっこり笑って、躯に問いかける。
「‥‥お互いにな。気が付いているだろう?もっともこっちはぎりぎりで間に合ったがな」
躯もにやりと笑う。
の首筋、頚動脈の辺りにも、躯の生身の手の手刀が寸止めで突きつけられていた。
「そうですね。貴女を相手に相撃ちに持ち込めたから、私的には出来すぎです。勝ちに等しい、かな」
そう言って、は喉元に突きつけていた手刀を下ろした。躯も、の首筋に突きつけていた手を下ろす。
ようやく張り詰めていた空気が和み、和やかな雰囲気になる。
「どうやって『氷』を呼んだ。そう言う事をする気配は感じなかったと思うがな」
凍りついた手を見ながら、躯が問い掛ける。
「‥‥貴女の手に巻きつけていた『帯』に凍ってもらいました。機械の手の方なら、凍らせたら、配線か機械自身がトラブって、一時的に使えなくなるんじゃないかな、と思って。機械は説得が楽でいい、らしいですし」
「召喚(よ)んだ訳ではないんだな」
「ええそうです。掌底が入ったと同時に、『帯』に氷に変じる様に念じました。別に口に出さなくても、水を操る事は出来ますからね」
「命令が必要だと思っていたのは、オレの勘違い、だな」
躯は自らのミスに気がついて肩を竦める。
「そう思うようにわざと口に出して命令していたんです。実力が圧倒的に違うんですから、これ位の頭脳戦はさせていただかないとダメです。頭使わなかったら、そちらが手加減してくれても、いい勝負にはなりませんもん」
「‥‥戦い方までキツネに似てるんだな。あまり真似すると性格が歪むぞ」
軽口を叩くその口調は、感心しているのか呆れているのか、それともその両方なのか。
「それは大丈夫です。元々結構似た者同士ですから(笑)」
さらりときり返しては笑う。
「で、お願いなんですが、今度から、こーゆー事やりたかったら、蔵馬に交渉して下さい。あの人の許可もらえたら、いくらでも相手になりますから。何でもありのバーリトゥードって訳には行かないでしょうけど、さっきよりは、もっと遠慮無くお相手できますよ」
ウインク一つ。その時、軽やかに鳴り始めた電子音のメロディ。
「う゛ぁ(汗)もーバレた‥‥?(滝汗)」
顔を引きつられて、携帯を引っ張り出す。二つ折りのそれを開いて耳にあてる。
「もしもし?うん。うん。え?うん。大丈夫。道に迷ったから、ちょっと能力(ちから)使って動いてただけ。別に何も危ない事はしてませんって。‥‥ちょっと、私って、そんなに信用無いの〜?ひどーい」
電話の主は、の予想通りの相手らしい。と言う事は、先程2人で話題にしていた躯言う所の『キツネ』こと蔵馬な訳で。
「‥‥あ〜の〜ね〜晩御飯の買い物に外に出て道に迷ったの!それだけなの!どーしてそー過保護なんですかねえ。カレシ様?うん。どうしてって‥‥今日は蔵馬帰ってきてご飯食べるって言ってたじゃない。うん。何が食べたい〜?‥‥なにそれ(−w−;;
お豆腐の崩れてない麻婆豆腐って‥‥。しょうがないじゃない、混ぜてると崩れるんだもん。‥‥前よりは崩れてない割合も上がったのに!見た目は悪いけど美味しいんですからねっ。蔵馬だって味は美味しいって言ってるくせに〜。文句いうんなら貴方が作ってよ〜」
躯に対していた時の様な、したたかな切れ者の顔は綺麗にしまいこんで。今ここにいるのはちょっと気が強くてわがままな可愛い女の子。見事な変わり身の早さ。この素早さは一種の才能と言っても間違いはないだろう。
「‥‥アイス食べたいから買ってきてね。辛い物のあとはやっぱり甘い物欲しいから。うん。だからね、私が外で危ない目に合うよりも、ご飯作ってて包丁で指切る方がよっぽど確率高いと思うわ(汗)そんなに心配なら、同伴出勤でもすればいいじゃない。お茶汲みならしてあげるから。はぁ?同伴却下?だったら、いいかげん適当に見放して下さいな。子供じゃないんだから。じゃあ、お仕事頑張って、早く帰ってきてね♪」
ようやく通話を打ち切って、は困ったような笑顔で躯の方を振り向いた。
「やっぱり、ばれました。貴女の気弾を結界で防いだ辺りで、気付かれたみたいです。一応誤魔化せたみたいですけどね」
「だが、嘘をついてはないか?バレたら事だろう。おまえ自身がかなり怖がってたじゃないか」
ニヤニヤとチェシャ猫の笑みで躯。
「ん〜、嘘は言ってませんよ。夕食の買出しに行くのは本当だし、道に迷ったのも本当だし、力を使って動いたのも本当。嘘は言ってません。言わなかった事、はありますけど」
嘘は言ってませんから、これで押し通したら、まあ、追求されてもどうにかなるでしょ。そう付け加えて、肩をすくめる。
「‥‥大した娘だな。キツネを手玉に取るんだから」
「それは褒め言葉として受け取っておきます。でも、この位だと、手玉に取ったうちに入りませんよ」
にこにこと笑いながら返答。
「向こうだって、手加減してるはずです。そもそも気付かれる時点で、向こうの方が上手ですし」
「なんだか刺すか刺されるかな関係だな(笑)」
「うーん、どうでしょう?違うと思いますよ。ただ、蔵馬は、自分の目の届かない所で、私が無事かどうかが心配なだけです」
「だとすると、さっきのアレは、キツネの基準だと、『無事じゃない』訳だ」
事態を面白がっている口調の躯。
「そーみたいですね。私の基準だと、十分『無事だった』訳ですけど」
面白くなさそうに答える。
「だから、躯さん、さっきの事は秘密にしててくださいね。後、貴方が初めてですって言ってお話しした事も。特に2つ目。お友達ですもの。内緒にしてくれますよね?」
にっこり笑って念を押す。その笑顔は少しだけ硬くて真剣だ。
「いいだろう。『お友達』だからな」
「良かった。ありがとうございます。それじゃ、私そろそろ、行きますね。ちゃんとお買い物に行かないと、嘘つきになっちゃいますから」
「ああ、またな。今度は許可取って来てやるから、遠慮するなよ」
世間の基準からは、少しだけ規格外な2人の『女の子』はそう言って、お互い笑って手を振った。
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