活気の溢れる商店街。賑やかな呼び込みの声や、買い物にいそしむ人、ウィンドゥショッピングを楽しむ人。しかし、ここは魔界。行き交う人々はみな、人間とは違う奇怪な姿の妖怪や魔物ばかりだ。
「魔界は危険な場所だって蔵馬は脅すけど、なんか、こーゆー感じって、人間界と変わんないな〜」
蔵馬との舌戦に見事?勝利を収めて外出許可を勝ち取ったは、蔵馬との約束を素直に守って、城下のメインストリートの一つとも言える通りを散策していた。一歩も城の外に出なかった、もとい出れなかったとはいえ、元々人間以外の存在に免疫が十分ある上、奇怪な姿の人々の往来は、城の内部でよく見たものだけに、特に恐怖とか恐れと言うものは、街中に出ても感じたりはしなかった。まあ、生理的嫌悪感を感じる見掛けのものがゼロだったとは言わないけど。
通りに並ぶ店を冷やかして、もし、蔵馬と一緒に出かける事になったら、おねだりしてみようかしらリストを、頭の中に作成してみたり、魔界にもいるんだと、つい呟いてしまった大道芸人とかストリートミュージシャンを見物してみたり。幾ら超大規模とはいえ、黄泉の城の中では決して味わえなかった『外の空気』を満喫し、今まで鬱々とたまっていた鬱屈も退屈も消え去って、は上機嫌でいた。
「でも、この発信機、ちょっとオオゲサ、って言うかゴツイよねえ(苦笑)」
右手首にはまっている、ブレスレット型の発信機を目の前に持ってきて軽く振ってみる。機能美に若干の装飾性を加えた金属製のそれは、幅が3cmはありそうな上、いざとなったらメリケンサック代わりに武器として使えそうな位厚みと重量感があるシロモノで1歩間違うと手枷にも見える。
「蔵馬もさ、もーちょっと、普通と言うか、目立たないものにしてくれると良かったのに‥‥」
口をとがらせてはみたが、城を出る前に、自分の手に発信機を手ずからはめた蔵馬の顔を思い出して、は悪夢を振り払うかのように首を振った。その時の顔が、にこやかではあったが、どう考えても目が笑ってるとは言いがたいものだったからだ。
「なんか手枷みたい‥‥もしかして、本当は鎖で繋いででも出したくなかった、ってゆー無言のメッセージなのかも‥‥(汗笑)」
自分で口に出した言葉に背筋が寒くなって、更に首をぶんぶんと左右に振って嫌な想像を振り落とす。急に喉の渇きを覚えて、散策中に購入したミネラルウォーターのボトルの封を切って口をつける。
「心配してくれてるのは、よーく分かるし、嬉しいんだけど、たまに過保護なんだよね(苦笑)」
愚痴なのかのろけなのかよく分からない独り言を呟きながら通りを歩いていたの右肩に、軽い衝撃が走った。弾みで手に持っていたボトルの中身が外へとこぼれて宙に舞う。
「あ、すみません‥‥」
謝罪の言葉を誰だかよく分からないぶつかった相手へ。ところが。
「すみませんで済むと思ってんのか、ねーちゃん」
その相手はいかにもチンピラでございといった風情の妖怪だった。
(あっちゃ〜。これってけっこー最悪のパターンっぽい?)
「兄貴にぶつかっといて、すみませんですますつもりかよ」
「なめた事言ってるんじゃねえ」
取り巻きのチンピラ妖怪もいる辺り、難儀な状況かも知れない。
「あの、ごめんなさい。怪我とか、無い、ですよね‥‥」
一応、下手に出てみるを、チンピラ集団は頭のてっぺんから足の先まで無遠慮な視線をぶつけて品定めする。
「兄貴、この匂い、この女人間ですぜ」
(あ‥‥ばれた‥‥。まー、別に気配とか隠してたわけじゃないから、バレバレなんだけど)
「ほう。人間が妖怪サマにそそうしたってわけだ」
「よく見ると、結構上玉ですぜ」
「人間風情が何されても文句いえねえって、しってるかねーちゃん」
兄貴分がの腕をぐい、とつかんで引き寄せた。
「‥‥離してください。私の不注意は謝りますけど、乱暴はよしてもらえませんか?」
「離してください、だと。お高くとまってらぁ」
下品な笑い声が上がる。すでに周りには人垣が出来始めていた。
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