の様子がおかしい。魔界の穴も閉じ、色々‥‥本当に色々な事があって、色んな変化があって、でも、それでも平和で平凡な『普通の日常』をそれぞれ取り戻してみんなそこへと帰っていったのに。
お互い『普通の人間』としてはどうしても規格外な事も、厳密な意味で『普通の日常』を送る事はどんなに願っても不可能な事も自覚してるけど、だからこそ、毎日の他愛ない日常を大切にしているのは、望んでいるのは彼女も自分も同じ。望んでいた『普通の日常』をこの手に取り戻したはずなのに。なのに、の様子がおかしい。どこがどうなのかを具体的に説明しろと言われると、理系的厳密かつ具体的な表現ではなく、文系的なあいまいで抽象的な表現でしか説明できないような変化なのだけど。つまり、一言で言ってしまうと『なんだか分からないけど変』。これに尽きる。強いて言えば、『何か自分に隠し事をしているようで変』ともいえるだろうか。一体何が彼女の中で起こっているのか、分からない。
「、その荷物は何?」
一緒に帰る帰り道、駅のホームへの階段を上がりながら、蔵馬は尋ねた。の手には学生カバンとお弁当を入れるランチケースともう一つ、学生カバンとほぼ同じ大きさのビニールバッグがあった。最初の二つはいつも見慣れているものだから、なんとも思わないけれど、最後のビニールバッグに何か引っかかるものを感じる。水着を入れるビーチバッグかなとも思えるけれど、まだ、季節は晩春と言ってもいい時期。いくらと自分の学校が違うから、カリキュラムに違いがあると言っても、授業で水泳があるには少々早すぎる、はずだ。
「ん?これ?これはね、水着♪」
返ってきた答えは、ある意味蔵馬の予想通りだが、ありえないと思った予想の方。
「水着って、ソフィアじゃもうプールの授業あるの?」
の通う女子高の名前をさりげなく出して、確認。
「ううん。違うよ〜。いくらソフィア(うち)が私立のお嬢さん校だって言っても温水プール作る程運動部強くないし」
別に悪びれもせずには答える。
「もしかして蔵馬何か心配してる?大丈夫よ。最近ねぇ、ジム通い始めたから。今日も帰りに寄ってひと泳ぎして帰ろうと思って」
きゃろんとした口調で返ってくる答えには、一点の曇りもない。
「ジムって、いつ会員になったの?そんな話初耳だけど」
更に突っ込みを入れてみる。この娘(こ)が自分と張り合えるほど聡明で口達者なのはようく分かってるから。
「あのね。うちのお母さんが最近会員になって。で、そこのジム、会員の家族もちょっとお金足して手続きしたら、準会員にしてくれるんだわ。だからね、せっかくだから一緒に手続きしてもらったの。親子でダイエット〜って(笑)夏も近いし」
完璧な切り返し。テニスに例えれば、サービスエース狙いで打ったサーブをブレイクされて強烈なリターンエースを決められたといった所か。
「ダイエット?にはそんなの必要ないじゃない」
蔵馬は少しだけ渋い顔を作った。目の前の少女はダイエットなんて言葉とは無縁だと思っていたのだ。イマドキの気味が悪い位に不健康に小食な女の子達とは違って、彼女は気持ちの良い位健康的ないい食べっぷりな上、やはり『普通でない』おかげなのだろうか、その健啖家ぶりとは反比例するかのように均整の取れた体型なのだから。
「え〜そんな事ないもん。やっぱり後2s位体重落としたいし。もうすぐ薄着になるのに、今ちょっとぷにっとしすぎてるから、今の内にしめとかないと夏になった時に泣きそうだもん」
は口を尖らせて反論する。だが、蔵馬には彼女の体型のどこをどう2sも削ってどう締めればいいのかすら分からない。痘痕(あばた)もえくぼと言う言葉がある通り、が自分の『特別な存在』であると言う欲目と、今彼女が学校の制服姿で、体型が手に取るように分かるような服を着ていないという事を加味したとしても、目の前にいるのスタイルはいわゆる『グラビアアイドル』の様な巨乳で凹凸が極端にハッキリしたメリハリのある体型ではないが、その年頃の少女らしい凹凸がきれいについている、均整の取れた十分に美しいもので。これ以上どこか削ったりしたら、その均整の取れた美しさが殺がれるような気さえする。もちろん現実問題として、よりスタイルのいい娘は探せば沢山いるだろうし、もまだ体型的には『少女』の範疇であって、『大人の女性』の体型には成長しきってないから、そういう基準だとまだ未成熟な部分はあるのは当然だけど、蔵馬の基準だと、力いっぱいひいきの引き倒しで、が『特別な存在』だから思いっきり偏向レンズの過大評価で彼女を見ていると明言した上で、彼女の見かけは完璧で自分の目には美の女神(ヴィーナス)の化身に見える。
「これ以上どこをどう削って落とすの?オレの目には完璧で手の加え様がなく見えるけど」
少しだけ面白くなさそうな色を加えて言う。絶対強烈な反論が来る事は承知の上で。感情的になってポロっと隠している本当の事を言わせるのが本来の目的だから。
「だって、ウエストとか足とか下半身細くしたいし。二の腕もぷにっとしてるし。もっと細くなりたいもん」
案の定否定の言葉が返ってくる。1000年は確実に生きている身で、それなりの人生経験はあるけれど、のように完璧な容姿を保っている女の子にすら、どこかを削り落とそうと駆り立てさせる『ダイエット』の魔力だけは、どうも理解し難い。正確に言うと、痩せてきれいになりたいという切実な乙女心までは理解できても、それが、どうして、その必要もない人間までそう思ってしまうのかが分からなくて理解に苦しむ。
「そんなに痩せたいんなら、トレーニングメニュー作ってあげようか?」
「ありがとう。でも丁重に断らせていただきます」
投げかけた言葉には力いっぱい首を横に振った。
「どうして?」
「だって、そーゆーのお願いしたら、蔵馬に私の今の体重教えなきゃいけないじゃない!」
「そうだね」
「そんなの、絶対にイヤ!」
この世の終わりでも来るかのような真剣かつ悲壮な表情では言う。
「そんなにオレに知られたくないの?」
「そう。知られたくないの!永遠に159pの体重は秘密でいたいから、イヤ!」
即答された。それもさっきの表情を崩さないままで。よっぽど知られるのがいやなのか、それとももっと知られたくない事を隠しているのか。どっちなのかは今の所確証は持てない。
「だとしてもイヤだなあ。に隠し事されるのは」
体重の話にかこつけて、隠し事があるなら話したらどうかな?と2重の意味を込めて促してみる。
「いいじゃない。女の子だもの。彼にも内緒な乙女の秘密があったって。女の子はいくつか秘密がある方が魅力的に見えるものだし」
ぴしゃりと跳ね除けられ、一刀の元に切って捨てられる。追求されたくないのが自分の体重なのかそれともそれ以外の何かなのか、その両方なのかは知らないが、言外にこれ以上追求するなと強い警告が発せられているのは明確だ。今日の所はこれ以上の追及は無駄だろう。つつきまわしても、ヒントになりそうなことすら、口を滑らす事はないだろうし。自分の体重の話は多分カモフラージュで、本命の隠し事は何か別のもので、何を隠しているのかはまだ分からないけれど。
「別に、秘密なんか持たなくったって、は十分魅力的なのに」
蔵馬がそういったその瞬間、の姿が蔵馬の視界から唐突に消えた。
「…っぁああっ?!」
階段の最後の一段を上がり損ねて、派手につまずき、その結果として思い切りよく転倒してしまったのだ。本来なら、つまずいたところで蔵馬がフォローに動き、完全な転倒を防いでしまうのだろうが、『普通じゃない』存在だから、そういう『日常の中の危険』は基本的にありえないとお互い認識しているのがあだとなった。いつもの蔵馬なら『考えにくい失態』であるが、目の前の出来事を事実だと認識して動き出すのが完全に遅れてしまい、結果的には何もできないままを派手に転倒させてしまう事になる。
「‥‥っぃったあ〜〜い‥‥」
派手に打ち付けた膝をさすりながらは立ち上がる。
「‥‥大丈夫?怪我は?」
立ち上がるのに手を貸しながら蔵馬は問う。自己の想定外の出来事だったとは言え、自分の目の前でみすみすを『危ない目』にあわせてしまった。防げなかった自分に対して無性に腹が立つ。元々に関する出来事に対しては、どうでもいい他人に対してよりも遥かに激しく感情が動くけれど、『魔界の穴』がふさがってからこの方、その感情のぶれが、以前よりも目に見えて極端になったようで。
「うん‥‥大丈夫、みたい。擦り傷とかはない感じ。でも、派手に膝打ってるから、後でその辺が痣になりそう(汗)」
まだ痛みが引かないのだろう、膝をさする手を止めないままは顔をしかめた。
「まったく、今日はどうしちゃったの?階段踏み外して転ぶなんて」
転倒したときに落としたのカバンを拾って渡しながら、皮肉げな声になるのが止められない。
「‥‥ん、ごめんなさい。なんか、ちょっと、立ちくらみ起こしたっぽくて」
「もしかして、『ダイエット』で無理な食事制限とかしてる?一日一食とか、水以外絶食とか」
「‥‥まだそこまで極端な事はしてない、けど。油断ち&甘い物断ちとカロリー制限やって、食べる量減らしてるだけだから」
「まだ?!‥‥って事は、そーゆー事するつもりだったワケ?」
『立ちくらみ』と『食べる量を減らしてる』と言う、二つの言葉に反応して声がキツくなる。自分の身体壊してまでのダイエットなんか認めない。
「‥‥‥思うように結果が出ないときの最後の手段として(汗笑)」
言い訳がましい返答。微妙に顔が引きつっているのは蔵馬の声に含まれている刺と感情に気がついたからだろう。
「そう‥‥。でも、そんな事、君が良くてもオレが許さないからね。そんな事してるって分かったら、即刻止めさせて、無理にでも食べさせるから。いい?」
敵に対する『本気の目』とまでは行かないけれど、十分に鋭い目で、釘を指す。
「‥‥‥そんなあ‥‥」
「いいね?」
さらに念を押す。穏やかに聞こえるが、絶対に反抗は許さない、と言う強制力を込めた口調で。
「‥‥‥うん」
完全に納得はしてません、と言った顔でが不承不承頷いた時、2人の乗る電車がホームに滑り込んだ。
と蔵馬がダイエット論争を繰り広げてから、数日後の事。
「ごめんね。今日は一緒に帰れないよ。文化部会の予算会議に出ろって捕まっちゃったから」
蔵馬が携帯をかけている相手は当然、。
「‥‥ホント?今日は私も一緒に帰れないの。よかった〜。貴方のお誘い断る事になるって思って気が重かったんだ」
返って来る声が、妙に安堵した調子なのが、引っかかる。
「またジム通い?」
「そう。あのね。聞いて聞いて〜。二の腕が1cmと、太もも周りが2.5cm細くなったの〜♪順調に絞れてるから、今日は強化メニューでもっとがんばるの〜(はぁと)」
いつもは全然気にかからないどころか、その楽しげな様子に癒されさえする、の口調が今日はなんだか蔵馬をイライラとさせる。
「ダイエットもいいけど、あまり細くなりすぎるのもオレはイヤだからね。いい?」
微妙にいらつきの混じった口調で念を押す。
「え〜、だって貴方だって、太ってる私よりはスマートな私の方が良いでしょ?」
「それは、まあ、間違いじゃないけど、あまり痩せすぎて、抱きごこちが悪くなるのは困るよ。抱きしめても柔らかくない君を抱いてもつまらないからね」
困らせるのを目的で、さらりと過激な内容の事を言ってやる。元々『ダイエット』に反対の立場としては、この位の意地悪は認めてもらわないと。
「‥‥ちょっと、昼間っから何言って‥‥」
案の定、困惑と羞恥に満ちた返答が帰ってくる。
「じゃ、オレもそろそろ会議に出ないと、部長に恨み言聞かされるから切るよ。さっき言った事は、ちゃんと守ってくれないと困るから。いいね?」
そう言うと同時に、の返答を待たずに蔵馬は一方的に通話を打ち切った。いつもはの良く使う手だけど、たまにはこっちが使ったって、いい。
「‥‥どうして、こんなにイライラするんだか。魔界の穴の後遺症、なのかな」
携帯を制服のポケットに突っ込んで、何かを吹っ切るようにひとつ伸びをすると、蔵馬は会議の開かれる教室へと歩き出した。
「‥‥あ、くらま、まって‥‥って、あ‥‥」
話し中を示す電子音が聞こえて、は諦めたように電話を切った。
「‥‥まだ、バレてないけど、アレはそーとーなんかヤバ気、だねえ。なんとな〜く本当の事情に気が付いてるみたいだし」
携帯をカバンに突っ込んで、ため息。がいるのはスポーツジムでもなければ、自分の通っている女子高の中でもなかった。目の前には広い、湖、と言っても良い位の池。周りは岩盤と土。そう。洞窟の中。それも、つい、二週間と少し前、魔界の穴が開いて、幽助達が激闘を演じて、それだけじゃない色々な事が起こる舞台になった場所――入魔洞窟。激闘の後がまだ生々しく残る洞窟の中心であるその場所に、は、一人立っていた。
「‥‥‥ふぅ」
小さくため息をついて、しゃがみこむ。まるで立ちくらみでも起こしたかのように額に手を当てて。
「‥‥っまだ、完全に中で浄化しきってない、か」
頭をひとつ振ると、はもう一度立ち上がって、着ているブレザータイプの制服を上着を乱暴に脱ぎ捨てる。幅広のリボンタイをほどき、ウエストを二つほど折り返していたグレーのボックスプリーツのスカートも脱ぎ捨てた。スカートと同じ色のベストと、白い丸襟のブラウスも脱ぎ捨てる。制服の下にはいつの間に着込んでいたのだろう、タンキニタイプのシンプルな水着。数日前に蔵馬が見咎めたビニールバッグから、水着の一部なミニのオーバースカートを取り出して穿き、脱ぎ散らした制服を片付け、靴と靴下を脱ぎ捨てて、身支度を終えた。
が身支度を終える頃、洞窟内部に異変が起こり始めていた。何もいない空中から、風で出来た狼の仔のような不可思議な生き物が現れる。地底湖からはローティーン位の女の子の外見をした全身が青いエルフの少女が、地面の中からは岩か土で出来たような直立して歩く、擬人化された子犬のような生き物が、それぞれ現れて、の方へ向かって歩み寄ってきた。
「ああ、ごめんね。大丈夫。今日もちゃんと、ここを浄化してあげるから。貴方達が、ここの土地一帯の守護が今まで通り出来る様に」
自分に近寄ってくる生き物たちに、はにっこりと微笑んだ。そのまま、一歩湖の方に進み出て、また、ふらりとよろけ、その場に座り込む。彼女の脚はだれがみても異常だと分かる位、どす黒く染まっていた。その脚を見て、近寄ってくる生き物たちは心配そうな表情を一斉に見せる。
「大丈夫。まだ、前回の浄化の時の瘴気が身体の中で浄化できてないだけだから。ちゃんと儀式はやれるから、精霊(貴方)たちは心配しないで、ね」
近寄ってくる生き物は、ここ、入魔洞窟に宿っていた精霊、らしい。となると、精霊使い(エレメンタラー)なにとっては、ある意味蔵馬よりも濃密な関係の存在、と言うことだ。
「、大丈夫?」
「まだ、瘴気が残ってるんだから、ムリはしない方がいいよ」
「そうよ。まだ瘴気が抜けていない状態でムリは‥‥」
口々に彼女の身を案じる3体の精霊。
「平気よ。貴方達の方が酷い目にあったでしょ。あんな事があったから。ここは元々霊的に中立な土地だから、魔界の濃い瘴気は、貴方達もつらかったよね」
魔界の影響が完全に抜け切ってないのに、力をたくさん使う実体化なんかしたらダメよ、そんな事しなくったって、私とはお喋りできるんだから、と付け加えてまた、は笑う。その笑顔はまるで慈母の様。
「それにね。さっさと浄化してしまわないと、私も大変なの」
「大変?」
3体の中で一番幼げに見える狼の仔が座り込むの膝に飛び乗った。
「うん。さっき電話かけてきた、私の彼。蔵馬の事、知ってるでしょ。みんなも。ここの浄化してるの、ナイショにしてたんだけど、そろそろ気が付きかけてる」
飛び乗ってきた狼の仔の頭を撫でながらは言う。
「ばれたら、きっと怒るし、ここの浄化も止めさせられちゃうから、バレる前に終わらせたいの」
「でも、も、きついでしょ。普通の術者なら死んじゃう量の瘴気を濃縮して溜めてるんだもん」
口を尖らせるのは湖の中から出てきた少女の精霊。
「大丈夫だって言ってるでしょ。そりゃ、溜めてる瘴気の浄化に結構な力使ってて、立ちくらみとか起こしちゃってるけど、この位だったら普通に学校通って女子高生やるには全然問題ないわ」
「一日位、浄化しなくったって、こっちは何も問題ない」
そう主張するのは、擬人化犬の姿をした精霊。
「だめよ。貴方達、あんなにつらい声で、聞こえる人たちに助けを求めてたでしょ。助けてって。あんな声聞かされちゃ、精霊使い(エレメンタラー)としても一人の人間としてもほっとけないもん」
ぴしゃりとその主張を跳ね除ける。
「さ、もうお喋りは終わり。そろそろここの浄化始めるから、貴方達も自分の世界に戻りなさいな。瘴気に侵食されてる体なんだから、もう消えないとだめよ」
そう言って、は立ち上がる。だが、3体の精霊たちは、消える気配が無い。
「こぉら。帰んなさいって言ったでしょ?」
子供を嗜める母親のようなの口調。
「ダメ。あたし達、の浄化が終わるまで、ここにいて、を守るの」
「守るの」
「そうだ」
口々に言う精霊たち。は根負けしたようにため息をついた。
「分かったわ。じゃあ、お願いする」
答えを聞くと、3体の精霊たちは目に見えて明るい顔になった。いそいそと中心部へ繋がる通路の方角を向く。その様子を見て、はまた母親のような笑顔を見せると、ゆっくりと湖へと歩みだす。下半身がすっぽり水につかる所までその身を沈めると、目を閉じた。胸の前で合掌すると、ゆっくりと複雑な形に指を組替え始める。水の上に出ている上半身から、ゆらゆらと陽炎のような淡い青真珠色の光が立ち上った。
「左手は剣、右手は鞘。命の源たる物よ。我に癒しと清めの力を‥‥」
口から低く、高くこぼれる呪文の言葉。その言葉が終わるか終わらないかのうちに、湖の水面上に、なにかどす黒いモノが浮かびだし、湖一面に広がった。それは、を目がけて、ゆっくりとゆっくりと収束していく。
「‥‥蒼の姫君の名にかけて、禍々しきモノをこの場から消し去りたまえ‥‥」
呪文を唱えるの身体は肘の辺りまで、そのどす黒いモノを吸い込んだように嫌な色に染まり始めていた。
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