女子大のキャンパス程、世間一般のイメージと中に入った実際の姿の異なる所はそうそうないだろう。実は共学の大学と違って、異性の目が無いゆえに、すっぴんにぼさぼさの髪を適当に括って、洗い晒しのトレーナーorTシャツに穿き古したジーンズと言った格好に代表される様な女を捨ててる様な格好の娘さんがそれなりの数を見受けられたり、逆にお水ちっくファッションな娘さんがちらほらいたり、女を捨ててない娘さん達の所構わない化粧直しが横行したり、異性の目が無いゆえの外見に関係なく、女を捨てたがさつ極まりない言動が横行したり、男手が無い分女で何でもしなくてはいけない為か、表面の性格はどうあれ、本質的に気の強い娘さんが揃っていたりと、いわゆる『にっこり笑ってごきげんようと挨拶』的清らかなイメージとは程遠い物だったりするのだが。
だがしかし、通ってる当人たちがどう思うかはおいて置いて、それでも『若い娘さん』特有の華やぎは何処かしら漂っている物だ。
その『華やいだ』キャンパスが、今日はより一掃『華やいで』いた。古今東西若い娘さんの夢中にして華やがせるものと言えば、『お洒落』と『おしゃべり』と『恋愛』と相場は決まっているものだが、そのうち、後者2つ‥‥一つは既に目一杯展開されており、もう一つは展開されるのを待っていた‥‥が繰り広げられていた為に。
「ねえねえ、見た?正門の前に超カッコいい人いるよ」
「あ〜あたしも見た。長髪で、花束持ってたよね」
「誰のカレシだろ〜。良いな〜」
「背も高いし〜。花束持って立ってるのが、モデルみたいな感じで、すごいいい〜」
「もしかして、ほんとにモデルとか芸能人だったりしてね♪」
「てゆーか、彼女の顔見てみたいと思わない?」
「うんうん。あの外見に釣り合ってなかったりしたら、超最悪☆」
正門を行き交う若い娘さん方の好き勝手な感想と批評を一身に浴びてる主は、蔵馬、だった。
直接謝りに言った方が、少しは、態度が軟化するだろうと思って足を運んでみたのだが。花を持参したのは、今までの反応から、花束一つ位で懐柔出来るとも思わないけど、まあ、気は心と言う事で。
いつになったらがここにくるのかは、ちょっと分からないから、持久戦になりそうではあったが。
「さて、いつまで待てば待ち人はくるんでしょうか‥‥?」
呟いた姿に、遠巻きで見ている娘さんたちから、きゃあ、と黄色い歓声が上がる。
まだまだ、蔵馬は待ちぼうけを食いそうなことだけは、確実みたいだった。
「何?正門に超かっこいい人がいるの?」
教授の研究室でお茶など飲みながら、入ってきたゼミ仲間には言った。
「うん、誰か待ってるみたいだって、言ってたよ〜」
「ふう〜ん。私も、もうすぐ帰るから、帰る時にいたら、顔拝んで帰ろっと♪」
「カレシは〜」
「それはそれ、これはこれ。単純に目の保養よ☆」
同レベルの顔などそうそういないLVの彼氏持ちなんだから、普通のかっこよさでは目の保養にはなりえないと言う突っ込みは、この場合成立しないんだろう。
「ところで、、あんたなんで残ってんの」
「こないだの直しが入ったレポート書き上げて持ってきたんだけど、センセが会議から戻ってきてないのよう」
「あ、だったら、今日はもう、無理だと思うよ。直接提出は」
「えー、なぜに」
「私もさっき、外書講読のレポート出しに行ったら、先生の部屋に、会議中につき放課後は不在って札が出てたから、メモつけて扉の前に置いてきちゃったもん」
「うぁ‥‥(汗)じゃ、ここで待ってても待ちぼうけ?」
「その公算が高いね」
「‥‥提出にきましたメモつけて、今日は帰ろ‥‥」
適当な紙切れを引っ張り出すと、さらさらと必要な事を書き付けてメモを作成し、レポートの上に置く。飲んでいたお茶のコップを研究室に付属の洗面台で簡単にゆすいで然るべき場所に置くと、帰り支度はほぼ済んだも同然だ。
「これでよ〜し。さー帰ろ帰ろ」
「あ、、あんたまっすぐ帰るの?」
「いーや。レポートの資料に借りた本返して帰る。まだ5時過ぎだから図書館空いてるし。一緒に行かない?」
「ん、ごめん。先約があるから、今日はパス」
「そーなの。残念。あ、今度お茶のみに行かない?ヴィアンに新メニュー出たってさ」
「へえ。そーなんだ」
「うん。じゃ、私図書館が閉まるから、行くね。バイバイ〜」
学舎棟から出て、図書館へとは向かう。レポートの資料にしていた、論文集や研究書を返却し、趣味の読書にケルト神話の本を漁り始める。
「えっと、こっちはこないだ読んだから、これ?でも、軽い読書にはちょっと重たいかなあ‥‥」
夢中になって本の品定めをしていたの耳に、閉館を告げるメロディチャイムが届いた。
「あ‥‥もうこんな時間?」
ちょっと冷やかす程度にしようと思っていたのに、本のチョイスに時間を忘れてしまっていたのだ。貸し出し手続きを取った時には、もう、図書室の時計は閉館時間の6時をわずかに回っており、館内の貸し出しカウンターには以外の学生の姿はなかった。
「さて、と、帰りますか」
本で重たくなった通学用のA4ショルダーを肩にかけ直すと、は正門へと向かう。もう、学生の姿もちらほらとしか見えず、時間の経過を改めて感じさせる。人気の少ないキャンパスに長居するのはちょっと心細くて、自然に歩む速度が上がってしまう。
早足で辿り付いた正門の前に『女子大のキャンパス』では通常ありえない人種――若い男性――の人影が一つ。
「くら、ま?」
「」
「何の用?て言うか、何しに、来たの?」
口からこぼれた言葉は、内心の気持ちとは裏腹の、意地でコーティングされた平板なもの。
「謝りに来たんだ」
「‥‥‥‥」
意地が、許したい気持ちも押し殺して、つんけんとした態度を取らせてしまう。本当は、こんな事言うつもりも、こんな態度を取るつもりも、無いのに。
「が怒ってるのも、オレを許したくないのも、分かってる。悪いのはオレだって事も。だから、オレは、君が許してくれるまで、何度だって謝る。ごめん。本当にごめん」
目の前の人は、自分がもう、とっくの昔に許されていて、ただ、相手がくだらない意地を張ってるだけだというのは、多分、分かってなくて。
「‥‥‥ごめん、なさい‥‥‥」
意地を食い破って口をついて出たのは、こんな言葉。
「何で、君が謝るの?悪いのは、オレなのに」
謝る相手から伝えられた自分への謝罪の言葉に蔵馬の顔に戸惑いの色が浮かぶ。
「あの、ね。私、もう、怒ってないのに、でも、すぐに許しちゃうのもいやで、許さなかったの。くやしくて。だから、ごめんなさい」
「それは当然でしょう。がそう思っても仕方の無い事をしたんだから」
「でも、ごめんなさい。もうちょっと冷静に考えたら、ここまで意地張る必要も無い事だったのに」
「だから、がそう思うのは、当然だよ。許したくないのも当然だと思う」
「だけど‥‥」
なおも言い募ろうとするを遮って蔵馬は言葉を紡ぐ。
「正直、の様子見てたら、このまま、オレの事嫌いになってしまうんじゃないかって思ったよ。でも、オレは、を愛してるから、許して欲しいって、思うのがオレのわがままやエゴだとしても、どうしても、許して欲しかった。だから、ね」
すい、と手渡されたのは、アネモネとカモミールのプチブーケ。
「あ‥‥」
「さっきも言ったけど、オレは何度でも、謝る。ごめんなさい」
深々と頭を下げた姿は、もう、正視することすら自分には絶えられなくて。
「‥‥‥もう、いいよ。蔵馬。謝らなくて。許してあげるから」
ともすれば泣きそうになる、ぐるぐる渦巻いた気持ちを抑えて、ようやく、言葉を紡ぐ。
「‥‥‥ありがとう‥‥」
顔を上げた蔵馬は、見慣れているはずの自分ですら、心臓が止まりそうな位綺麗に笑っていた。
「これでも、まだ許してあげなかったら、私、どうしようもない悪女だよ。そんなの、イヤ」
最後に、ほんの少しだけ、意地っ張りが顔を出して。
「うん。それでも良いよ。オレは好きだから」
ふわりと取られる手。いつのまにか向こうの肩へ移動してる、ずしりと思いA4ショルダー。
「蔵馬。この位自分で持てるのに‥‥」
「オレが持ちたいんだから、いいんです。今日はこれから、どうしたいの?」
「どうしたいって‥‥」
「埋め合わせはちゃんとする、って言ったでしょう。たった今から、今週の週末は、全部の望みのままだから。食事でもドライブでも映画でもショッピングでも舞台でも、好きなだけわがまま言って構わないよ」
「だけど、こんな格好で、出かけるなんて、出来ない〜〜」
UV対策+α程度のメイクと、完全に実用性重視のユニクロライクな七分袖シャツにジーンズ姿な自分の姿に、は『恋愛中の若い娘さん』なら当然とも言える悲鳴をあげた。
「どうして?はこのまんまで十分魅力的なのに」
「でも、でも〜〜」
「‥‥これ以上魅力的になられると、オレがわがまま聞く余裕もなくなっちゃうから、このままで良いよ」
「‥‥‥もう////!」
追いかける恋はTOO SERIOUS カッコ悪いだけだから
危なげな君なんかもう このまま忘れたいけど
追いかける恋はMYSTERIOUS シャクだけど ほっとけない
相変わらず今夜CALLING YOU いつかは僕だけのJUST MY GIRL
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