「‥‥‥で、もう5日もシカト決め込んでるんですか?」
シフォンケーキをつつく手を止めて、螢子はに問い掛けた。
「うん。だって、許せないんだもの」
ティラミスを片付け、オレンジタルトを攻略しながらは答える。
「でも、蔵馬さんだって、悪気があって、そんな事したんじゃないと思いますけど‥‥」
黒胡麻のブラマンジェを飲み込んで、雪菜もとりなす。
ここは、とある店のケーキバイキング。話題はと言えば、この間の蔵馬とのいさかい。
「悪気が無かった、としてもちょっと酷すぎない?あんなにすぐばれる様な嘘、付かないでほしいわ」
既にオレンジタルトは半分がの胃に消えている。
「正直に話したって怒ったと思うけど。でも、もしも、その嘘が本当だったとしたら、ほんとに急に仕事が入ったんだとしたら、私もしょうがないね、今日は諦めるわ、って言えたのよ」
手元のアイスティーを飲んで喉を湿らす。
「だけど、蔵馬さんは謝ってるんでしょ?気持ちは分かりますけど、だったら、そろそろ許してあげてもいいんじゃ‥‥」
「じゃあ、螢子ちゃんは幽助が同じ事したら、すぐに許してあげれる?」
速攻で切り返されて、螢子もちょっと考え込む。
「う〜ん。謝られたって一発は殴らないと気が済まないかも」
「でしょ?私は殴る代わりにこーしてる訳」
オレンジタルトを攻略したは、フランボワーズムースに取り掛かる。
「‥‥‥さん、よく食べますね‥‥」
ポツリと呟いたのは、雪菜。
「‥‥腹が立ってる時は、お腹が空くのよ」
ぼそりと、言い返すと、改めて、ムースを口に運び出した。
「はあ‥‥」
雪菜は曖昧に頷くと、自分の取ったブラマンジェを再度攻略し始めた。
「‥‥‥ほんとは、許してあげた方がいいかな、って思ってるんだけどね」
ケーキを食べる手を休めて、が先程の拗ねたような、怒ったような口調とはまた違った口調で呟く様に口を開いた。
「だったら、許してあげる、って返事したらいいじゃないですか」
雪菜が、我が意を得たりとばかりに、を促す。
「でもね、なんか、悔しくて。今、許しちゃったら、向こうが謝って来るのに根負けして許したみたいだし。かと言って、はじめに謝った時に、はい、そうですかって、すぐ許すのもいやじゃない」
「そんなに誠意の足りない謝り方なんですか?」
「そんなことは無いよ。でも、私が許してあげたくないだけ」
ちょっと口を尖らせて、子供が拗ねているような表情。
「‥‥ばかばかしい意地張ってるとは思うの。でも、やっぱり、あーゆーすぐバレる様な嘘付かれたの初めてだから、なんか悔しくて。何で、私にそんな嘘つくんだろうって。どうせ付くなら分からない様に、もっと上手に嘘をついて欲しいわ。あの人は狐なんだから、そーゆー嘘つくのってプロ、なんだし」
淋しそうな笑顔。
「‥‥‥そーだよね〜。雪菜ちゃんと螢子ちゃんの言う通りよね。謝ってるんだから、許してあげればいいのよね」
それがなかなか出来ない、自分の性格が疎ましい。張っているのは冷静になればくだらない意地。くだらない意地だけど、でも、感情は納得できなくて。蔵馬の様子を見れば、向こうが心底すまないと思って、謝ってきてるのは明白過ぎる位よく分かって。どこかで折り合いをつけなければならないのだが、連絡が来ると、どうも素直になれなくて。
「もう、意地を張るのは止めてくれって、向こうが言ってくれたら、いいんだけど」
ふ、と口をついて出た言葉。
「そこまで要求するのは、幾ら蔵馬さんが相手でも、ちょっと贅沢でしょ?」
「私も、そう思いますよ」
「あ、やっぱり?だよねえ。うん。その辺、妥協しないといけない、よねえ」
苦笑しつつ、同意する。
「もうちょっと様子見つつ、こっちも冷静になって考えてみるわ」
「何を考えるんですか?」
「許してあげる、って言うタイミング」
意地を張っているのも、もう少しで終わりになりそうな予感は、した。
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